--------

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2006-05-28

『ジャケット』あるいはD.V.C.の応用問題あるいは

「12月25日に生まれたユダヤ系の青年と、彼の死後に出会ってしまったために文字通り運命が変わる女性の物語」とこう書くと、某今年最大の話題作と公開日が同じだったことは、決して偶然でもクジ運でもなかったように思えます。
 さあ、連日のダ・ヴィンチ・キャンペーンにあてられて、自分でも何やら謎解きが出来るような気がしてきた君! ひとつ応用問題だと思って『ジャケット』の謎に挑んでみないか!? その際、くれぐれもパンフレットの購入はお忘れなく!!

 と、配給会社様の意向(たぶん)に従って煽ってみましたが、もちろん『ジャケット』は額面どおりに受け取っても充分に面白い映画です。
 公開前は難解難解と匂わされていたので、ドグラマグラ的に入り組んだ世界を想像していましたが、別段なんの難しいこともない。
 あらゆる要素が終盤でカシャカシャカシャッと組み上がっていく緻密な構成に、生と死、正気と狂気、喪失と回復、自己と他者といった深遠なテーマを織り込んだストーリーは、古き良き正統派SFを思わせます。

以下若干のネタバレ有
 どこか曖昧でざらついた映像や、観客の瞬きのタイミングによって解釈が変わってしまうのではないかというほどフラッシュバックを多用した演出には好き嫌いが分かれそうですが、それにもまして演技陣が素晴らしいので嫌味はありません。
 特にブロディ氏は、ひょっとすると『戦場のピアニスト』以来のアタリ役ではなかろうか。
 殊に、しょっちゅうアップになる目の演技が素晴らしく、虚ろだったり不安げに揺れていたり、激しい攻撃性を見せたり醒めた知性を見せたりと変化しつつ、そのどれもが何とも言えない深い悲しみを湛えているのです。ほんとに目千両ね。
 これは演出の問題でしょうが、瞳の色がキレイに映っているのも良い。もともと、この人の瞳は光の加減によって、黒っぽい緑だったり緑っぽい茶だったり完全に2色に分かれてたりするのですが、その性質と、主治医(C.クリストファーソン)や患者仲間(ダニエル・クレイグ)の変化のない青い目との対比が、非常に効果的に使われています。……つうか、なんてこの役者の使い方をわきまえているんでしょうか、メイブリー監督。ただでさえ「孤独」「不運」「箱」というエイドリアン3カード(いつ決まった)が出揃っているというのに。
 と、ここまでくるとブロディ君のワンサイドゲームみたいですが、どっこい周囲のキャストも素晴らしく、良い役者がそれぞれ一癖ある役を演じているのは、良く出来た演劇を観ているようです。
 特に相手役のキーラ・ナイトレイ嬢は、失礼ながら今まで勝ち気なお嬢様以外イメージがなかったんですが(監督もそう思ってたようですが)、頽廃的でフラジャイル極まりないヒロイン役が実に似合ってました。だって、冷蔵庫で食い物を腐らせ、タバコと酒を持って風呂に入り、入っている間に軽食(パンに残り物をはさんだだけ)作ってくれてた男についホロッときてしまうような女だぜ。世の女性たちの自虐的共感を変に集めていそうで気掛かりですが、それでも華があるのはさすが稀代の美人女優さんです。
 この二人の、一瞬に見えて実は15年越しのラブストーリーには、正直かなり泣かされました。


 しかし、本編中にも度々「この作品は多重イメージですよ」と伝える演出があるとおり、この作品の最大の魅力は解釈の多様性にあると思います。
 最初に言ったダ・ヴィンチ応用編として観ると、主人公はまず少年を蘇生させて自分が預言者であることを示し、はては預言を成就するために死んでみせるのだし、ラストで登場する「ジャッキー」は、彼女自身であると同時に二人が結ばれたことで誕生した「娘」であるともいえるわけだ。
 他にも精神分析みたいに観ても面白いだろうし、まんまユングだと言っている人もいたし、JACK, JACKIE, JACKETという単語の並びがそもそも怪しいような気もします。
 ちなみに私は例によって錬金術を連想しました。ナントカのひとつおぼえと言わば言え。黒→白→赤→金の基調色の変化と、破壊→密封→変成という流れからの連想です。何か抜けているような気もしますがDVDで見直したらきっと上手いことこじつけられるさ(そういうのを本末転倒と言うのだ)。
 ただし、この話にはラングドン先生はいないので、正解が出ないことにフラストレーションを覚える人にはおすすめしません。むしろ解釈の遊びが大好きで、正解なぞ無粋の極みくらいに構えている人におすすめ。





……とかなんとか言いつつ〈あの後、なんらかの時空の歪みで2人のジャッキーが鉢合わせしたらエラいことになるな~〉とか考えていたのは内緒だ。
「ちょっとジャック、その女誰よ!」
「……えーと、だからこれはママが死ななかった場合の君で……ていうか、まず顔が同じなのを気に……」
「どこが同じよ! 私そんなにアゴ張ってないわよ! 胸だって私のほうがまだちょっとはあるわ!(女性は鏡の前では二割増で良い顔をしている)」
おい、解釈の遊びはどうした。知的娯楽作はどこへ行った。

theme : 映画感想
genre : 映画

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

蛹原タオ

Author:蛹原タオ
sanagihara☆yahoo.co.jp
属性:書痴画狂・犬派・虫キチ・不定形生物好き
趣味:映画・演劇・古書漁・動植物観察
好き役者:A.ブロディ、T.クレッチマン、B.D.ハワード、J.イェンチ他
好き作家:稲垣足穂、種村季弘、たむらしげる、手塚治虫
座右の銘:三十六計逃げるにしかず
*06年3月15日以前のログはこちら

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。